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[700] グラウンドの外から支えてくれてる人たちがいるからこそ

一年 藤堂 2007/1/20

「明日からオレ、練習に戻ることになったし・・・」
有働は部室でドリンクボトルを洗いながら、
一年全員に聞こえるように言うた。
「・・・・・・・・」
皆、無視をする。
地味な裏方仕事にうんざりしてるやろうから、
練習に戻れて、さぞ精々したことやろう。

すると、有働はオレの方を向いて
「でも、これからはできるだけこういう仕事もするつもりや」
ハッキリ言い切った。
「え・・・・」
皆、アホみたいに声を揃えて有働を見た。
「オレ、レギュラーという立場に甘えてたことがよぉわかったんや。
 グラウンドの外から支えてくれてる人たちがいるからこそ、オレは走れる。
 そういうこと、全然気がついてへんかった」
「・・・・・・・」
「確かに皆のこと、わかってへんかった。
 この前は偉そうなこと言うて、ごめん」
有働は頭を下げて謝った。


(続く)

[701] 悔しかった
一年 藤堂 2007/1/22

有働がすごいヤツってことは入学する前から知ってた。
オレらとはレベルが違う。根本的なところから違う。
同じ年やのに、すでに学生レベルやないプレイを
はじめて目の前で見たときは度肝を抜いた。
FWの有働の、軽く流してるように見える走りに、
BKであるオレが追いついたことは一度もなかった。

努力したらいつか有働に追いつけるとか、そんな次元の話でもなく
持って生まれた才能とかセンスの問題だけに、余計悔しかった。

先生や先輩らからも可愛がられ、女の子には騒がれてるくせに
有働自身は決して嫌なヤツではないのも、余計腹が立った。

でも・・・・・
有働はいま目の前で頭を下げてる。
オレらが勝手にひがんでるだけで、本人には全く非がないのに・・・・。

「お・・・・おう・・・・・」
オレは焦って
「その・・・なんや・・・えと・・・・」
必死で言葉をさがす。

(続く)


※FW(フォワード)=主に攻撃を担う選手達。
 激しい肉体のぶつかり合いに負けない「強さ」を求められる
※BK(バックス)=得点に結びつける選手達。
 「足の速さ」を求められる。


[702] 背中を追って

一年 藤堂 2007/1/23

下げた有働の頭の中心につむじが見える。
「・・・・オレらも子供じみた事したな、悪かった」
背が高いから普段は見えへんつむじを指で突付いて言うた。
「いや・・・皆の態度は当然のことやと思う」
有働は突かれたつむじをさすりながら頭を上げた。

「あんな、有働・・・・」
オレはすべてを打ち明けることにした。
「有働はもう忘れてると思うけど、オレ、大阪のH中学でウイングしてたんや」
「え・・・・強豪のH中・・・・?」
「オレとお前、去年、決勝で戦ってるんやで」
「・・・・・・・!」
「三点差でうちが勝ってた後半ロスタイム、有働がターンオーバーで
 そのまま走りきって逆転優勝したやろ。あのときボールを奪われたのがオレやった」
有働は驚いて言葉を失ってたけど、他のメンバーはもっと驚いてた。
「走る背中を必死で追ったけど、FWの有働にまったく追いつかへんかった。
 だからオレは大阪の学校を蹴って、有働のいる伏水に来た」
「・・・・・・」
「有働のすべてを盗みに、追ってきたんや」
「・・・・そうか・・・・」
有働は頷いた。
「でも、身近でプレイを見れば見るほど、あの時の背中以上に遠くに感じて悔しかった。
 だからきつく当たってしもた。卑怯なんはオレの方や」
今度はオレが頭を下げる。
「ごめん!許してくれ!」

(続く)

※ウイング(WTB)=多くのトライを得ることが求められ、チームの中で最もスピードのあるプレーヤー
※ターンオーバー=プレイ中に相手ボールを奪取し、攻守が入れ替わること。

[703] パスをつないで
一年 藤堂 2007/1/24

「お互い様やで」
今度は有働がオレのつむじを上から突付いた。

「北公園で練習してるのを見て、オレも皆とパスをつなぎたいと思ったんや」
「え・・・!」
また皆で声が揃ってしまう。
「知ってたんか」
「うん・・・・先輩から聞いたけど、あれ、【打倒有働の会】っていうんやろ」
「う・・・・」
肘で突付き合うオレらを見て有働は苦笑し、
「あの、良かったらオレも北公園の練習、参加してええかな?」
恥ずかしそうに言うた。


「おう、来いや!」
オレの一言で、他のヤツらも入ってきて
「有働はラインアウトが苦手やから、オレらが練習相手になったる」
「そのかわり、いろんなこと教えてくれ!」
本当は皆も有働と仲良くなりたかったんやろう、すぐに大きな輪になった。
「うん、オレなんかで良かったら!」
その嬉しそうな顔は、等身大の高校生そのものや。
「たまに稲嶺先生が通りかかって缶ジュースおごってくれるんやで!」
「へえ・・・ええなぁ」
有働はニカッと笑った。

オレは有働の前に立ち、
「皆でパスをつないで、花園に行こう!」
背中ではなく、真正面に、やっと向かえた気がする。


(終わり・後日談に続く)

※ラインアウト=タッチラインに対して垂直に並んだ両チームの選手の間にボールを投げ入れ、空中などでボールを奪い合う。(身長の高い選手が主に行う)


[704] 本来の姿

稲嶺 2007/1/27

最近、有働が遊んでくれへん。

今までは平日も週1〜2日は練習が終わって
門限までの30分ほど、うちへ寄ってたけど、
部活後さらに北公園で一年生だけの強化練習に
参加しはじめてから、休日しか来れへんなった。
今週は休日も試合があるから、
二人きりで会える日はまったくない。
「・・・・つまらん・・・・」
家仕事(採点とか)もないし、野球中継もないし、
家にいても暇やからコンビニで大量にドリンクを買って、
北公園に行ってみた。

「もっさんもっさん!サイドやッ!」
「掻け!掻けッ!」

夜の公園に響く声。
今日は試合形式の練習をしてるから、
オレが近づいても誰も気がつかへん。
有働が参加したこともあって、もう遅いのに
公園には女の子たちもチラホラいる。(ムカ)

いつもどんどん前へ出る有働がサポートに徹していたけど
先輩らにまじって練習してるときよりもイキイキしてる。
「ヨッコンや!」
「いや、そらノッコンやろ!」
失敗した者に軽口を言うたり気楽な雰囲気で
心から楽しんでいるのが表情から見てとれた。
オレを含め、普段有働の周囲は年上ばっかりや。
無理をしているところもあるのかもしれん。

「あれが有働少年の本来の姿なんやろなぁ・・・・」
小さく呟くと
「あ!稲嶺先生!」
藤堂がオレに気がついた。

(続く)

[705] 公開告白再び
稲嶺 2007/1/28

「あ、どもども」
試合は中断し、メンバーがワラワラと寄ってきた。
最後に有働が振り向く。

「差し入れやけど、試合続けて続けて!」
妙に恐縮してしまう。
「いえっ、ちょうど休憩しよと思てたところです。
 いつも差し入れ、有難うございます!」
藤堂が丁寧にお辞儀をすると、他のメンバーも
「ありゃーしたー!」
真似してペコリと頭をさげた。
藤堂はリーダーシップのあるヤツで、メンバーの信頼はあつい。
三年になったら実力の有働か、統率力のある藤堂か、
キャプテン・バイスキャプテン決めに悩むやろう。

有働は無言でラグジャの肩で汗をふきながら、ゆっくりと歩いて来る。

メンバー一人一人にドリンクを配って、(オレはマネージャーか)
最後に有働に渡したとき、いきなり強い力でオレの手を取って引き寄せ、
「先生、好きです」
と真剣な顔で得意の公開告白がきた。
「は・・・・はぁ?」
「ブッ」
「有働、アホや〜ッ!」
瞬時に爆笑の渦にのまれる。
「先生先生!オレも好きです!」
「オレもずっと前から憧れてました!」
悪ノリしたメンバーが次々にオレの手を握っていくと
「先生はオレのんやから、触らんといて」
有働が体を張ってさえぎり、また大爆笑された。
どこまで冗談で本気なんかわからん。

オレは耳まで赤くなって、後ろから有働のケツに蹴りを入れた。

(終わり)


[706] ファン

有働姉ちゃんズ 2007/1/31

16歳のゆうちゃんは人気者でファンは多いけど
うちらはゆうちゃんが生まれたときからの、
一番最初のファンや。

[707] ラグビーで苦手なもの
有働 2007/2/3

ラインアウトが苦手や。
FW第2列(ロック)より身長が高いから、
いつの間にかジャンパーにされているんやけど、
使いものにならへんぐらい酷い。
しかも大抵相手チームのジャンパーより高いのに、
どうしてもボールが取れへん。

持ち上げられて視界がイッキに高くなると
ボールの競り合いどころではなくて、心の中で
「うわわわわわ・・・・・・!」
と叫んでる。
完全にビビッてて、いかにして着地するか
ばかり考えてるから、ボールが取れへんのや。

・・・・どうやらオレは高所恐怖症っぽい。
元々、遊園地も好きとちゃうしな。

「あの、フワッと持ち上げられるの気持ちいいやろなぁ」
って先生が言うから
「先生、遊園地の乗り物好き?」
って聞いたら
「うん、めっちゃ好き!」
と力一杯答えられた。
171センチの先生とラインアウト競り合っても
オレ、負けそう・・・・。


[708] 地面大好き

高所恐怖症・カナヅチ有働 2007/2/4

ああ・・・・地面はええなぁ。
空中も水中も人間の本来いるべき場所やない。
やっぱり地面に踏ん張って生きていかんと、うん。

[709] 有働姉ちゃんズ 3000票有難うございます!
有働 2007/2/5

「あっ、ゆうちゃんの顔に泥がついてる」

姉ちゃんはハンカチで拭こうとするけど、オレは顔をそむけた。
そんな態度をとっても
「大丈夫?どっか怪我してへん?」
と心配そうに背中の泥を払う姉ちゃんに、
オレは腹立ちと罪悪感で複雑な気持ちになる。

オレは小さい頃から姉ちゃんたちの言うことをよく聞く「いい子」で
疑問を全く感じひんまま、なんでもかんでも従ってきた。

それが、ラグビーをはじめて、男だけの世界を知ってから
試合の後とかに姉ちゃんがメンバーの前でいちいちオレに構うのが嫌で、
はじめて姉ちゃんを疎ましく、恥ずかしく感じた。
オレもう高学年やのに、皆の前で子供扱いせんといてほしい。

いつも口うるさく、でも優しい姉ちゃんたちを疎ましく思うのは
悪いと感じながら、でも放っておいてほしい気持ちの方が大きい。

このやるせない怒りと、切なさは一体なんやろう。




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